【一期一会】
よくいわれるカラヤンとの不仲のせいなのか、それともマネジメントによる強力な采配が原因なのか、バーンスタインが指揮したベルリン・フィルとの公演は生涯にただ一度のみ(2日間)で、それは今からちょうど30年前の出来事でした。
公演曲目がマーラーの9番ということもあってか、その公演はもはや伝説と化していますが、幸いなことにRIASによってその模様がステレオ・レコーディングされたために、伝説とは言っても「幻」にはなっていないのが嬉しいところです。
【ウィーン・フィル vs ベルリン・フィル】
バーンスタインはこのベルリン・フィル公演の8年前に、ウィーン・フィルを率いてベルリンのフィルハーモニーザールに乗り込み、同じくマーラーの9番を演奏しています。
UNITELによって収録されたその映像を見てみると、ウィーン・フィルとの演奏は、ベルリン・フィルのそれと所要時間も解釈のコンセプトも似ているのですが、オケの性格・サウンドの違いもあってか、ベルリン・フィル盤とは、いろいろな意味で大きく印象が異なるのが注目されるところです。
しなやかで軽妙ささえ漂わせ、アンサンブルとしての一体感もあるウィーン・フィルに対し、ここでのベルリン・フィルはごつごつといかつく、何かに憑かれたような抑制の効かなさ加減が独特の雰囲気を醸し出しているのが特徴的。いたるところで情念の噴出を感じさせ、どこか凄みのある重い音によってドラマティックな傾向を示すベルリン・フィルの演奏は、
のちのカラヤンとの演奏では大きく様子が変わっているので、それらの特徴がバーンスタインの音楽性に根ざしたものであることを如実に感じさせてくれます。
【ベルリン・フィルとのリハーサル】
未知の大物指揮者の客演ということもあって、当時、ベルリン・フィルの団員たちも大喜びだったようで、出番・降番を巡って楽員間でちょっとした騒動も持ち上がったほどと伝えられています。
バーンスタインも、初めてのオーケストラへの客演ということや、作品が難曲マーラーの9番という事情もあって、通常よりも長いリハーサルを要求していましたが、ベルリン・フィルとカラヤンとのスケジュールの都合などから、リハーサル時間をめぐるトラブルが発生し、完全な満足を得るまでの準備をおこなうことができなかったとも言われています。
【ベルリン・フィルの大熱演】
しかし、そうした状況にも関わらず、バーンスタインはここで、ベルリン・フィルからファナティックなまでの破天荒なサウンドを引き出しています。その異様なまでの高揚と没入の激しさは、スタイリッシュな演奏で知られていたカラヤン指揮するベルリン・フィルとはまるで別団体のような凄まじいものです。
第1楽章の冒頭から既に尋常ではない緊張をはらんだ響きがとにかく強烈。精鋭ベルリン・フィルを崩壊寸前まで煽りに煽り、鼓舞するバーンスタインのもと、発奮した楽員たちの壮烈な気迫がいたるところから伝わってきます。第4楽章のとてつもなく深い感情移入も胸打たれる素晴らしいものです。
【実演ならではの感動】
この録音が実際のコンサートのライヴ録音であることと、完全とはいえなかったリハーサルの問題もあってか、演奏にはときに瑕疵も見受けられ、特にテンポの変動の激しい第4楽章では事故も発生していますが、そうしたことを踏まえても演奏の感動の深さが揺らぐことはありません。それは楽員たちの奏でる音楽が、バーンスタインへの熱い共感に根ざしたものにほかならないからだと思われます。
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マーラー:交響曲第9番ニ長調 [81:22]
第1楽章 Andante comodo [27:31]
第2楽章 Im Tempo eines gemachlichen Landlers [15:49]
第3楽章 Rondo-Burleske: Allegro assai [11:59]
第4楽章 Adagio. Sehr langsam und noch zuruckhaltend [26:03]
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
レナード・バーンスタイン(指揮)
録音時期:1979年10月4~5日
録音場所:ベルリン、フィルハーモニー
録音方式:ステレオ(ライヴ)
プロデューサー:ホルスト・ディットベルナー
バランス・エンジニア:ヘルゲ・イェルンス
サウンド・エンジニア:クラウス・クルーガー